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PayPay証券は「第三極」を目指す 荒れる相場の動きとPayPay連携の行方

PayPay証券 栗尾 圭一郎 社長

2024年1月にスタートした新NISAにより、投資は多くの盛り上がりを見せた。約2,647万口座(2025年3月末時点)で、20代~30代の投資層も以前に比べると格段の厚みを見せている。

そんな「ブーム」に乗ったのがPayPay証券だろう。2021年2月の社名変更から、約4年で口座数は137万、NISA口座も42万件まで拡大。5大ネット証券といわれてきた、証券会社の一翼を担うまで急成長した。2024年は株式市場の環境も良かったことも、その後押しをしただろう。

一方、2025年の投資環境は波乱含みだ。米国トランプ大統領の就任や関税政策などで株価が日々大きく揺れ動いているほか、国際政治の不安定化などでも、投資家の不安は広がっている。平穏な気持ちで投資を続けるには、少々厳しい環境になっている。

加えて、3月末からは証券会社各社において、不正アクセス・不正取引の被害の問題も広がっており、金融庁によれば、被害は4カ月で3,000億円を超え、昨年の投資ブームとは別の意味で、社会問題となっている。

そんな中PayPay証券は、4月付でPayPayの連結子会社化となった。この状況下でPayPay証券はどのような戦略を描いているのか。4月にPayPay証券の代表取締役社長に就任した栗尾 圭一郎氏に、PayPayとの連携が生み出すシナジーや今後の展望、足元の市場変動への対応について聞いた。

PayPayと一体化の価値 「銀証連携」も

25年4月、PayPayがPayPay証券の親会社になった。従前よりPayPayは35%の株式を持つ筆頭株主だったが、4月以降は75.2%を持ち、PayPayが連結子会社化した形だ。今後は、PayPay色が高まるとみられ、栗尾社長もPayPay出身だ。この狙いはどこにあるのだろうか?

「連結子会社になることで、これまで以上に(PayPayとPayPay証券の)事業シナジー、コミュニケーションの“深度”を高めていきます。これまでもPayPayからのユーザーが多く、シナジーはでていましたが、PayPayだけではなく、PayPay銀行など金融各社も金融ホールディングスとしてつながっていくため、そのコミュニケーションが深まっています」

実際、PayPay、PayPay証券、PayPay銀行で分かれていた拠点も、コモレ四谷に集約された。各社フルリモート体制だが、新サービスの立ち上げなど、「膝を突き合わせて進める」体制も整えているという。

連携強化により、「顧客基盤とデータなど、より深い分析ができるようになる」という。例えば、PayPayの利用履歴にあわせて、PayPay証券で資産運用の提案を行なうなどで、ユーザーメリットを出していくといった形だ。

現在でも、PayPayのミニアプリにおいて、PayPay銀行の残高を確認したり、PayPay銀行の残高から支払える仕組み(PayPay銀行残高)に対応している。「これを第1弾として、今後はお互いの操作画面で、例えば預金(銀行)からそのままPayPay証券の株取引にシームレスにつなげて投資したり、ミニアプリだけでなく、銀行と証券それぞれのアプリでの連携をより強化するといった施策を予定している」という。

PayPayでPayPay銀行の残高で支払える「PayPay銀行残高」

加えて、PayPay証券の特徴である「米国株」のサービスにおいても、PayPay銀行の米ドル預金とシームレスに連携するなど、「銀証連携は幅広くやっていけると思います」(栗尾社長)。

元々、PayPay証券の新規顧客獲得の多くはPayPay経由だ。6,900万人という巨大な顧客基盤を持つ「PayPay」のシナジーを最大限に活かすための証券サービスが「PayPay証券」といえる。

その中でも特に効いているのが「ポイント運用」だ。PayPayの支払いでもらえる「PayPayポイント」を投資できる投資入門的なサービスだが、本格的に投資をスタートしたい人をPayPay証券の口座開設につなげている。5月には利用者が2,000万人突破しており、投資“体験“アプリとしては日本最大となる。この“体験”から本格的な投資につなげるのがPayPay証券の役割となっている。

ただし、ポイント運用自体には、新規顧客獲得以外でもPayPay証券では重要な役割があるという。

PayPay証券は、他の「ネット証券」と比べて、取り扱う商品はあまり多くない。米国株式に強みをもつほか、NISAの積立投資向けのラインナップは充実しているが、国内株式も上場している全ての銘柄をカバーしているわけではない。

一方、ポイント運用は、「スタンダードコース」「チャレンジコース」といった比較的シンプルなコースもあるが、「ナスダック100」を基準に約3倍変動する「テクノロジーチャレンジコース」や、その逆で「ナスダック100」の“下落”で利益を得る「テクノロジー逆チャレンジコース」なども展開。さらに、暗号資産のビットコインの現物価格に連動する「ビットコインコース」も展開している。

ビットコインコースについては、反響は大きく、ポイント運用ということもあり気軽に試せるという点は支持されているという。

ポイント運用の「ビットコインコース」

「投資歴が長くても、ビットコインは買ったことが無いという方も多くいらっしゃいます。ポイント運用では、『体験できる』という価値があります。また、損をすることもあっても、分散投資の重要性を理解できるかもしれません。ポイント運用はこれまで以上に重要になっています」(栗尾社長)。こうしたポイント運用での反響は、PayPay証券における商品強化においても参考にされている。

初心者のPayPay証券から幅広い人のPayPay証券に

6,900万ユーザーを超える「PayPay」の顧客基盤と、PayPayのミニアプリで使えるという気軽さを特徴に、急拡大してきたPayPay証券だが、単体アプリの「PayPay証券」も強化していく方針だ。

PayPay証券の前身は、「日本初のスマホ証券」を謳い2016年にスタートした「One Tap BUY」で、特に米国株に強みを持つ。利用歴が長いユーザーは、株式投資にも積極的だという。

「はじめての資産運用はPayPay証券」をアピールして、加入者を伸ばしてきたPayPay証券だが、特に2025年に入ってから、米国トランプ大統領の就任と関税政策などにより株価が乱高下する中で、取引量が大きく伸びている」という。

米国株を中心に株式売買を行なう人は、ミニアプリではなく、PayPay証券アプリを積極的に使っている。PayPay証券では、積立投資のユーザーが多いものの、積極的な株式投資を行なう人は、トランプショックの中で「予想以上に多い」と認識したという。そのため、「『初心者はPayPay証券』以外のメッセージも出す必要性を感じている」とのこと。その軸となる施策がアプリ強化だ。

基本的な機能としてはミニアプリでもPayPay証券アプリと変わらないが、よりスマートに素早く取引できるなど専用アプリの使い勝手を磨いていく。また、積立を中心にしている人と、株式取引の頻度が多い人でアプリの機能を出し分けるなど、ユーザーに応じた機能の調整なども行なっていく計画という。

「初心者でもわかりやすい、投資信託でNISAでということは主軸のままです。ただ、それだけじゃない、ということはこの相場でも実感しました。米国株やスマートフォンでの取引のし易さをしっかり伝えていきたい。商品のラインナップを拡大していくためにはネイティブアプリが必要です」(栗尾社長)。

セキュリティ問題と荒れる相場への対応

一方、証券業界の課題となっているのが、3月末からの「セキュリティ」事案だ。不正アクセスにより、口座が乗っ取られ、意図せぬ売買が行なわれるといった問題で、金融庁によれば、10社、3,000億円規模の不正売買が確認されており、各社が2要素認証の必須化など、対応を強化している。

PayPay証券では、以前から2要素認証を導入しており、取材時点では「不正アクセスの事実はない」とのこと。

当初の不正アクセスでは、中国株の売買が行なわれていたが、PayPay証券では中国株を扱っておらず、取り扱う商品が少ないことが「狙われにくいという部分はあったかもしれない」という。ただし、セキュリティに対しては、常に対策が必要なため、モニタリングを強化している。

現時点ではこのセキュリティ問題について、ユーザー側の大きな動揺や行動変化は見られないという。それより大きな変化となっているのが、米国トランプ大統領就任以来の相場の激動だ。

ユーザーの動きをみても、積立投資を止めているというデータは確認できているという。一方、積立投資での資産形成は、相場下落時にも積立を続けていることが重要なため、落ち着いて投資判断するよう促す告知メールなどは配信しているという。

そうした買い控えの動きがある一方、買い時とみて積立額を増やしたり、取引を増やす人もかなり多い。栗尾社長は「相場が激変するタイミングで、自分の意思で行動を起こしているのはよいこと」で、日本で投資が定着してきたと手応えも感じているという。

米国株を含む株式は「取引量が2倍ぐらいになった」とのことで、大きく相場が動く局面では、取引が拡大する傾向がある。こうした活発なユーザー行動から、専用アプリの強化が必要と判断した。

目指すは証券「第三極」

投資入門者を軸に、幅広いユーザーの獲得を目指すPayPay証券。ただし、NISA口座数では楽天証券が600万以上、SBI証券が500万以上とPayPay証券の42.2万とは大きな開きはある。口座数も1,000万を超える両社に比べると、PayPay証券の137万はまだ桁が違う。

栗尾社長も「楽天証券さんやSBI証券さんと同じ土俵で戦うというイメージではないです」と認める。そのうえで目指すのは「第三極」という。

「ベッドで寝ながらでも取引できるとか、そういうPayPay証券の良さをもっと伝えていきたい。全ての取引を1つの証券会社にしなくても、株式取引だけはPayPay証券、といった使い方もいいのではと考えています。自分たちの強みとUXを磨きながら、2強に対する第三極、次の勢力として存在感を示していきたい」

そのうえで、NISAについては100万口座の達成と、PayPayの経済圏の中で「資産を増やすプロダクト」として事業を拡大していく計画だ。

臼田勤哉