西田宗千佳のイマトミライ
第296回
「Copilot+ PC」離陸準備完了 新Surfaceはどう貢献するのか
2025年6月9日 08:20
日本マイクロソフトは、アメリカで5月6日に発表済みだった「Surface Laptop 13インチ」と「Surface Pro 12インチ」を、日本国内でも出荷開始する。出荷日は6月10日。
同社はそれに合わせ、東京都内でメディア・インフルエンサー向けにイベントを開催し、他のメーカー製PCも含め、「Copilot+ PC」をアピールした。
そして、筆者の手元には、マイクロソフトから「Surface Laptop 13インチ」と「Surface Pro 12インチ」の評価機材が届いた。
こちらのファーストインプレッションも含め、Copilot+ PCの今がどういう状況なのかを確認していこう。
出だしでつまづいたCopilot+ PC
今回、マイクロソフトがCopilot+ PCをアピールした理由はシンプルだ。自社製品が出た、ということもあるが、それ以上に「ようやく一般に訴求できるタイミングに来た」というのが大きいだろう。
マイクロソフトは4月末に、Copilot+ PC向けの主軸機能である「Recall」「Click To Do」「Windows Search」など、AI関連機能を一般向けに提供を開始する、と発表している。
マイクロソフトがCopilot+ PCとそのAI機能を発表したのは昨年5月のこと。筆者は発表会に参加して記事を書いている。
そこで目玉としてRecallが公開された。Windows 11上のオンデバイスAIを使って、「PCの中で起きたことを全て検索して呼び出せるようにする」ものだ。
「赤い車」「青い服」「文字が多い表紙の本」のように自然言語で、その内容が表示されていた時の画面を表示し、関連するファイルや
ウェブサイトを呼び出せる。
これは使ってみると確かに便利。質問を解釈する精度に課題も感じるが、うまくキーワードさえ設定できれば、過去の記憶を引っ張り出してくれる。
Recallは、PCを操作中に定期的にスクリーンショットを撮影し、それをAIが解析することで成り立っている。だがその結果として、内容が外に漏れると大きなセキュリティ問題を発生させる。
発表後、その視点での指摘が相次いだ。初期からセキュリティモデル(システムや情報保護のルール)は存在したはずだが、マイクロソフトは改めて、懸念に対応するために公開まで時間を取った。
結果として、Recallの公開は、2024年10月に、Windows Insider向けにテスト公開を開始した。
そこでのテストを経て一般公開になったのが今年4月末。それまではウリの機能の1つが使えない……という状況だった。
マイクロソフトは本来、2024年6月、Copilot+ PCが店頭に並んだ段階で機能のテストを開始し、2024年内でできる限り素早く一般公開するつもりだったはずだ。それが予定外に伸びることになり、ビジネス的にはだいぶ苦しんだはずだ。
1年待った結果、製品の数も増え、多くのメジャーなPCメーカーがCopilot+ PC対応製品を出荷するようになった。自社でも昨年モデルに加え、価格を抑えた新機種を用意し、ビジネスの準備が整ったことになる。
ただ、遅れた分だけ、消費者にはCopilot+ PCのメリットが伝わっていない。テック業界の常として、デザインを含めたハードウエアの情報は伝わりやすいが、ソフトや機能については認知に時間がかかるもの。ここからが長期戦だ。
Snapdragonで魅力を推すも、x86の存在は欠かせない
もう一つ、Copilot+ PCが伸び悩んだ理由として、初期には「Snapdragon採用製品」が中心だったことが挙げられる。
Windows PCの主流はx86系であり、ArmベースのSnapdragonでは不安を感じた人も多いだろう。
発熱・消費電力の観点ではSnapdragonの方がまだ有利であり、マイクロソフトも、先行してArm系へと移行したアップルを強く意識していた。
確かにその発想はわかるが、Arm系に対する不安感は拭い難い。
筆者は日常的に、Snapdragon X Eliteを搭載した「Surface Pro 13インチ」を使っている。発熱が小さくバッテリーもスペック通り(14時間のビデオ再生)持つし、原稿執筆を軸にした仕事で性能や互換性に不満を感じたことはほとんどない。
一方で、主にドライバーソフトで制限があり、ATOKが使えず(筆者はWindows標準搭載の日本語入力でも問題ない)、ゲームは性能以前にアンチチートアプリの関係で動作しないことも多い。
そうすると、「x86でCopilot+ PCが使いたい」と思う気持ちもわかる。
今後マイクロソフトは、インテルやAMDのプロセッサー向けにも、Copilot+ PCの機能を「できる限り同じタイミングで」提供していく計画になっている。
そうした準備が整いつつあることも、あらためて「Copilot+ PC推し」をアピールする理由でもある。
現状、Copilot+ PCはノートPCを中心とした製品であり、デスクトップ型は少ない。Windows Hello認証が必須であり、顔認証や指紋認証などの機構が必須であること、ゲーミングPCなどで使われる外部GPUを「あくまで現状は」考慮していないことなどが理由だろう。
しかし、普及のためにはデスクトップでの利用促進も重要だ。PCとしてはノート型が圧倒的に強く、デスクトップ型は主流ではないとはいえ、利用促進には重要な存在と考える。
価格を抑えたが魅力は維持した新Surface
一方でマイクロソフトは、自社ブランドであるSurfaceでは、特に個人市場において頑なに「Snapdragon推し」だ。もうすぐ発売になる「Surface Laptop 13インチ」と「Surface Pro 12インチ」も、プロセッサーとしてはSnapdragon X Plusを使っており、Arm系である。
前出のように、マイクロソフトはアップルのMacBook Airなどを強く意識している。Windows PC同士の競争ではなくMacを含むPC市場全体を考えると、単独モデルシェアでは強いMacBook Airを意識するのはよくわかる。
一方、昨年発売の「Surface Pro 13インチ」「Surface Laptop 13.8インチ/15インチ」の課題は「高価」なことだ。
Surface Pro 13インチ(第11世代)の価格はおよそ20万円。それに別売のキーボードをつけると25万円を超える。クラムシェル型のSurface Laptop(第7世代)も20万円を超える。
PCの中では高価な部類であるMacBook Airが16万4,880円からなので、価格差はかなりある。そして、Copilot+ PCでないx86系CPUのノートPCはさらに安い。
このアンバランスをどうするか、ということで、今回出てきたのが「Surface Laptop 13インチ」と「Surface Pro 12インチ」だ。サイズを小さくしてディスプレイを中心としたスペックを下げ、プロセッサーもより価格重視の「Snapdragon X Plus」を採用している。Snapdragon X Eliteに比べると、主にGPU性能で大きな違いがあるのだが、価格重視だとしても大きな問題が出ることはなさそうだ(ゲームは現状Arm向けWindows 11では厳しい、という事情もある)。
使ってみるとかなり快適だ。筆者としては、ディスプレイのサイズよりもキーの左右(特に、エンターキーなどのある右側)の狭さが気になるが、本体の軽さ(Surface Proはキーボードなしで895gから686g、Surface Laptopは1.34kgから1.22kg)を重視する人もいるだろう。
Surface Proについては、キーボードのBluetooth対応やペン内蔵(12インチでは本体裏に貼り付け)がなくなったという変化があるが、これはこれで割り切った良い仕様だと思う。
結果として、価格は大幅に下がって書いやすく鳴った。
割り切りはあるものの価格を抑え、「マイクロソフトとして今打ち出したいPC」をまとめたのが、今回のSurfaceといえる。
低価格とはいえ、教育市場向けである「Surface Go」などに比べると高級感はあり、その分高いが、違いを考えると納得できる範囲ではないだろうか。
あとは、この施策を後押しする、Copilot+ PCの機能が重要だ。
個人的には、現在Windows Insider向けにテストされている「Perfect Snapshot」が気に入っている。詳しくは以下の動画をご覧いただきたいが、これは、「適当に枠で囲むと、必要そうな部分をAIが認識してきっちり切り取ったスクショを作ってくれる」ものだ。「切り取り直し」という無駄な作業がなくなるし、「ピッタリ枠に収める」という努力もいらない。
ライターだけでなく、多くの人が資料内の画像を用意するためにスクリーンショット機能を使っている。一般公開の暁には、多くの人が労力の軽減を体感できるはずだ。