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楽天モバイル、「最強衛星サービス」26年第4四半期開始
2025年4月23日 18:19
楽天モバイルと米AST SpaceMobileは、4月に日本国内で初めて、低軌道衛星と市販スマートフォン同士のエンドツーエンドでの直接通信によるビデオ通話に成功した。これにより、モバイル通信圏外だった山間部などもカバー可能となる。楽天モバイルは2026年第4四半期(10-12月)の「Rakuten最強衛星サービス」実現に向けて準備を進める。
楽天モバイルとASTは、2020年3月に戦略的パートナーシップを締結し、ASTの低軌道衛星と市販スマートフォンによる直接高速インターネット通(音声・ビデオ通話等)を目指すプロジェクトを進めてきた。
今回の試験では、福島県内に設置した楽天モバイルのゲートウェイ地球局から電波をASTの「BlueBird Block 1」に向けて発信し、衛星を介してスマートフォンが受信。市販のスマートフォン同士で通話アプリを使用し、福島県と東京都間でのビデオ通話を実現し、衛星と市販スマートフォンによる直接通信に成功した。
この試験は、日本国内で市販される一般的なスマホを使用し、実験試験局免許の予備免許を取得した上での事前疎通確認となる。今後、実験試験局免許を取得の上、通信試験を実施予定。
楽天グループと楽天モバイルの三木谷浩史会長は、この取り組みを「携帯業界のアポロ計画」と強調。楽天モバイルの面積カバー率が100%になり、災害大国である日本におけるインフラとして、重要な施策であると強調した。また、「競合(Starlinkと思われる)に比べて衛星が非常に大きい」ことから、テキストや音声だけでなく、データや動画伝送にも有利であると強調した。
「スムーズ」を謳う新たな衛星通信サービス
ASTが構築する衛星通信システムでは、既存のスマートフォンが対応している周波数帯を利用可能。日本向けサービスにおいてプラチナバンド(700MHz帯)を使うか、1.7GHz帯を使うかは今後決定されるが、三木谷氏はプラチナバンドで構築したい意向を示している。これは低い周波数帯の電波伝播特性を意識したもので、仮にプラチナバンドで構築した場合、屋内でもつながることが想定されるとし、使い勝手に大きな違いが出る見込み。
ASTが運用する低軌道衛星「BlueBird」は多数の衛星を連携させる衛星コンステレーションで、試験は5機の衛星で行なわれた。商用サービス開始までに50機が打ち上げられる予定で、地球全体をカバーする。日本の地上局は(福島県を含め)3カ所に設ける予定。
なお、50機体制は必要なエリアをカバーできるものの、ユーザーの上空を通過していく衛星を次々に切り替えていくという仕組み上、時間の面で“完全な常時接続”にはならない予測されている。具体的には、1時間のうち4分程度は接続できない時間が発生するという。完全な常時接続を実現するには95機の衛星が必要と見積もられており、衛星の数はサービス開始後も拡充していく方針。
また、第1弾とは周波数帯を変えた展開や、通信速度の向上、収容できる規模の拡張なども、衛星サービスの第2弾、第3弾などとして取り組む。これは衛星の置き換えではなく、機能や性能の向上で実現していく。
サービス内容は柔軟に制御できるため、メッセージサービスだけ、帯域保証型など、さまざまな展開の可能性があるとしている。
ユーザーの端末は、地上のアンテナで構築されたエリアの圏外に出た場合、衛星にスムーズにハンドオーバーできるという。これは、楽天の通信サービスが「O-RAN」で構築され、ソフトウェアで柔軟に制御できることも貢献している。ユーザーの端末には衛星のピクトアイコンなどは表示されず、衛星の通信サービスを意識させないものになる見込み。
楽天モバイルは現在、「Rakuten最強プラン」のみを提供しているが、26年第4四半期に投入されるこの衛星サービスを利用できる料金については「まだ悩んでいるのが正直なところ」(三木谷氏)としており、現時点では未定となっている。
なお、大規模災害発生時には、この衛星通信システムを“開放”することも検討中。「楽天モバイルの契約者以外も繋がれるようにできたらいい」(三木谷氏)とした。
楽天モバイルが構築に関わる衛星網
23日に開催された発表会では、この「BlueBird」の衛星通信システムを使ったビデオ通話のデモンストレーションも実施された。
三木谷氏は、ブロードバンドを実現することが競合企業との大きな違いとし、「大変エポックメイキングなサービスになる」と意気込んだ。
三木谷氏はまた、仕組みの面でスターリンクとの違いも強調した。低軌道衛星「BlueBird」のアンテナは、地上局(地球局)から発射された電波を、宇宙から地上に向けて反射する“鏡”のように機能する。衛星は軽く、より大きなアンテナを採用でき、出力を上げることが可能で、通信速度も向上させられる。制御の大半は地上局側で行えるため、サービス内容を含めて柔軟な設計が可能になる。サービスを提供しないエリアを設けることもできるという。
さらにいえば、ASTは、楽天モバイルが15%の株を保有する関連会社であることも優位点となる。スターリンクはSpaceXが運用しており、CEOであるイーロン・マスク氏の意向に左右される可能性が懸念点として指摘される。楽天モバイルは自社でリスクをとってASTの衛星システムの開発を共同で進めてきた立場であり、自分たちでコントロールできる範囲が格段に大きいのも、スターリンクを採用する他社のサービスとの違いになる。三木谷氏はまた、災害対策や法人需要、IoTのニーズだけでなく、「政府関係者からも興味をいただいている」と言及しており、(恐らく)経済安全保障の観点でも注目されているとみられる。
ASTの衛星通信システムは世界の約40の通信キャリアとパートナー契約を締結している。これは末端のユーザー数にすると30億人にもなるという。パートナーとなるキャリアは70~80社にまで拡大を見込んでおり、こうした世界中のキャリアが手掛ける衛星通信サービスのインフラとして提供することで、「楽天シンフォニー」の拡販を含め、収益源として成長させていく方針。